Works事例紹介
県産木材にこだわり、再生可能エネルギーで暮らす「信州健康ゼロエネ住宅」
取材日:2025年1月25日

新井さん家族 ご主人 奥さま お子さま
地球温暖化防止に向け、長野県が住宅分野での二酸化炭素排出量を抑えるため推進する「信州健康ゼロエネ住宅」。高い耐震性能と断熱性能を備え、再生可能エネルギーを取り入れることで環境にやさしい暮らしが可能になります。
また、県産木材を活用することで、持続可能な森林環境を守ることにもつながっています。
2024年11月、松本市に「信州健康ゼロエネ住宅」を建てた新井さん家族は、健康的で快適、さらに省エネルギーで、これからの暮らしが楽しみになったと話しています。
「信州健康ゼロエネ住宅」には最低基準、推奨基準、先導基準があり、基準によって金額は異なりますが、それぞれの要件をクリアすることで助成金を受けることができます。
地域経済と林業振興に貢献する県産木材の家
(耐水性や耐久性に優れた木材であるカラマツを柱や梁に選んでいる)
信州で育った木材を活用して造られる「信州健康ゼロエネ住宅」。
地元の里山で生育した木はその地域の気候や風土に適しているため、丈夫で長持ちする家になるといわれています。新井さん宅の設計を担当した「山の辺建築設計事務所」の一級建築士•宮坂さんは、県産木材に強いこだわりを持っています。
「輸入材に頼るのではなく、この信州には立派な木がたくさん育っているので使わないのはもったいないし、自分の地域で経済を回し林業振興につながるのが一番。そのために時間をかけて独自のルートを構築して良い木が入りそうなら、手を尽くします。」と宮坂さん。
新井さん宅では構造材として、土台に木曽ヒノキ、柱や梁(はり)には安曇野カラマツをメインに、足りない木材は東信エリアで伐採した県産木材を使用しています。
その柱や梁に用いたカラマツは、宮坂さんが参加する安曇野市の「里山木材活用プロジェクト」から「市有林を伐採する」との情報が共有され、原木を伐採後、直接、宮坂さんも現地に赴き材質を確認、付き合いのある製材加工会社に購入をお願いし、ようやく使うことができました。
宮坂さんは「輸入材で造っているのが一般的だから、地域の材、堀金で育った木の方がストーリーもあり、お施主さんも愛着が湧くと思います。」と話し、新井さん家族も完成した木の家をとても喜んでいます。
奥さまは県産木材の利用について、
「海外から長い距離、燃料を使い二酸化炭素を排出して輸入材を運ぶより、地元で伐採された木は運ぶ距離も短く二酸化炭素の排出も抑えられるので、持続可能な環境という観点でも使う意味は大きいと思います。食べ物でもフードマイレージと言いますけど、お家も同じかなという感覚はあります。」
(安曇野市堀金で針葉樹のカラマツを伐採)
構造材以外は国産の木材を主に使用。フローリングは北海道のタモの無垢板を張っているため肌触りも良く、ご主人は冬でも裸足で過ごされています。
浴室には岐阜の「東濃ヒノキ」を使用。奥さまは、「お風呂の壁と天井はヒノキを張っていただいたので香りがとてもいいんですよね。」と話し、その隣で娘さんも「森の中にいるみたい。」とうれしそう。
(浴室の天井と壁材、洗面造作棚は岐阜の「東濃ヒノキ」)
断熱材は一般的な住宅より厚く施工、窓は最高レベルの断熱性能を有するトリプルガラス】
「信州健康ゼロエネ住宅」では高い断熱性能を備えるため、UA値0.5以下で造ることを要件としています。
UA値は住宅からの熱の逃げにくさを示す数値で、数値が低いほど断熱性能が優れていて床、外壁、天井の断熱材の種類や厚さ、窓の断熱性能など細かい条件で算出され、それぞれの住宅によって異なります。
新井さん宅では、基礎断熱にA種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種を100ミリ、壁には高性能グラスウールを210ミリ吹き込み、屋根断熱は高性能グラスウールを400ミリ吹き込むなど、一般的な住宅より断熱性能を強化しています。
窓は最も断熱性能が高いトリプル(3層)ガラスを採用し、風の流れや日射取得を設計に取り入れるパッシブ手法でその大きさが考えられています。通常は採光を取るため南に大きく開口を取りますが、南北に長い敷地形状と西に連なる北アルプスの山並みを意識し、午後の西日を最大限取り込めるよう西窓を大きくしました。
新井さん宅ではUA値0.24、断熱等性能等級6で「信州健康ゼロエネ住宅」の推奨基準をクリアしています。
(午前中から昼までは南窓からの日射、午後は西窓からの日射取得を考えた設計。県産木材などを用いたサッシの造作枠に腰掛け、折り紙を上手に折る娘さん)
取材に伺った午後1時の外気温は6度で室内は21度、日が西に傾いた午後3時には外気温は5度に下がりましたが、室温は西日が入るため23度に上がっていました。
「冬の朝6時の外気温が氷点下5度でも、室内は暖房なしで16度あり、寒くて布団から出たくないことはなくなりました。壁にも断熱材が厚く入っているのでサッシの造作枠のところに植物を置けたり、娘が座れたりして良かったです。」と奥さま。
高断熱高気密住宅は熱が逃げにくくどの部屋も室温が一定に保たれるため、夏涼しく、冬は暖かい快適な温度環境になることが特徴です。二酸化炭素を排出する化石燃料由来のエネルギーを必要とするエアコンなどの使用量が抑えられ温暖化防止にも貢献、省エネで電気代の負担も少なくなるのがメリット。
新井さんの場合、以前住んでいたアパートでの暮らしと比べ、居住スペースが2倍に増えているにもかかわらず、電気使用量は変わっていないということです。
高断熱高気密の家ではヒートショックが起こりにくいなど健康面でもメリットがあります。
新井さん家族は、以前の住居では、結露によるカビが発生していたためか、よく咳き込んでいたそうです。今は結露もなく、咳き込まなくなり、健康面での心配が減ったといいます。
その理由について「結露しなくなったのは高断熱高気密なのと、窓がトリプルガラスだから。」と宮坂さんが教えてくれました。
再生可能エネルギーを利用する太陽熱温水器とペレットストーブ
太陽熱やバイオマスなどの温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出しない再生可能エネルギーを取り入れることも「信州健康ゼロエネ住宅」の特徴です。
新井さん宅の玄関の外には太陽熱温水器を置き、水道水を太陽の熱で温め給湯に利用、洗濯や食器の洗い物時に活躍しています。
奥さまは「冷たい水で食器を洗うと手がすぐ荒れるのでお湯を使いがちで、むだな使い方と言われていたんですけど、今は太陽熱温水器が来て、冬の薄曇りの日でもぬるま湯が出て、すごく助かります。夏はまだ使ってないんですけど、ガスを使わず太陽のエネルギーだけでお風呂のお湯を沸かせるそうなので、それを体験するのを楽しみにしているんです。」と話し、頼もしい存在になっています。
またバイオマスエネルギーを利用したペレットストーブは、燃焼時に二酸化炭素を排出しますが、木が成長過程で二酸化炭素を固定するのでカーボンニュートラルな暖房。燃料のペレットは県内•上伊那周辺の間伐材を利用したもので、森林整備にも役立っています。
「わが家のぺレットストーブは輻射式で、じんわり暖まるストーブのおかげで、1階から2階までぽかぽかです。」と奥さまは話し、笑みがこぼれます。
(2階のワークスペースの開口も南北に大きく取り、採光と通風を確保。1階からペレットストーブの輻射熱が伝わってきて暖かな空間に)
地震にも強い耐震性能の「信州健康ゼロエネ住宅」
「信州健康ゼロエネ住宅」では地震に強い耐震性能を備えています。新井さん宅では許容応力度計算により壁倍率と床倍率を計算し、耐力面材と筋交(すじか)い、耐震金物をバランスよく施工し、耐震性能を高めています。
地震のニュースが流れると娘さんから「このお家は大丈夫?」と聞かれ、ご主人は「大丈夫だよ。」と答えるそうで、家族も安心できる造りになっています。
最後に奥さまに「信州健康ゼロエネ住宅」での暮らしについて伺いました。
「普通に健康に暮らしたいと思っていても住空間が整っていないことで咳が出がちになっちゃうとか、環境のことを考えるとエアコンやストーブを使いすぎないようにしたいけど、『この家は寒いから仕方ない』みたいなことはないお家に暮らせることになり、本当にありがたいなと思います。なるべく環境にやさしい暮らしを意識していたので、『信州健康ゼロエネ住宅』で、よりやさしい暮らしになったと思います。」